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​夜雨に浮かぶ、月を見上げて。

​作:月宮はる

​利用規約をご一読ください。

【所要時間】

約15〜20分

 

 

 

【登場人物】

市原 柚月 (いちはら ゆづき)

長山 裕人 (ながやま ひろと)

 

(よろしければ、上演時は以下をコピペしてお使いください)

『夜雨に浮かぶ、月を見上げて。』

https://harutsukimiya.wixsite.com/voice/rain-moon

市原 柚月(♀):

長山 裕人(♂):

​________________________________________________

 

裕人:もうすぐ、一年になるんだな。

 

 

柚月:どうしたの、急に。

 

 

裕人:いや、ごめん。なんとなく。

 

 

 

柚月M:精算も、誰かを思うがゆえだとしたら。

 

 

裕人M:伝えないことが、巡り巡って愛になることもあると、信じたかった。

 

 

 

柚月(タイトルコール):夜雨(よさめ)に浮かぶ、月を見上げて。

 

 

 

 

【ベランダに並んで話す二人】

 

 

柚月:流石にこの時期は冷えるね。

 

 

裕人:あぁ。さっきからパラパラ雨も降ってるしな。

でもほら、こういう東京タワーも悪くないだろ。

 

 

柚月:そうだね。…ねぇ、今日、どうしてこんないいところにしたの…?

 

 

裕人:たまにはいいかなって。ビジネスホテルばっかりも、味気ないし。

 

 

裕人M:どうして人は、こうも息をするように嘘を吐けるんだろうか。

 

 

柚月:…裕人は、いいの?こんな、こんな不毛なこと続けて。

 

 

柚月M:雨雲の奥で鈍く光る朧月に、私は後ろめたさにも似た何かを感じた。

 

 

裕人:不毛ってなんだよ。…実際、…何もないだろ、俺たちは。

 

 

柚月:そういう問題じゃないでしょ。だって、私は…

 

 

裕人:…今日、どうした?なんかあったのか。

 

 

柚月:…てよ。

 

 

裕人:…え?

 

 

柚月:やめてよ、そういうの。どうしてそう、優しくするの。

なんで一年も…こんなこと続けられるのよ。

 

 

裕人:……

 

 

柚月:たまに会って、ただただ寂しさを埋めて、消えない傷を勝手に押し付けてるだけなんだよ。

こんなの、やってられないって突き返せばいいのに…

 

 

裕人:…お前が、あいつのこと忘れたくて、でも忘れられなくて、

そのどうしようもない苦しみの緩和剤として高校から仲のいい俺を呼び出して、

ただ側に置いて、気持ち吐き出すだけ吐き出して、夜が明けるのを待つ。

お前の言ってる『こんなの』って、要はこういうこと?

 

 

柚月:……

 

 

裕人:(独り言のように)…どうしてって、聞きたいのは俺の方だよ。

 

 

 

(裕人、柚月の腕を掴んで部屋の中に戻り、ベッドに押し倒す)

 

 

柚月:…!?ちょっ、ちょっと待っ

 

 

裕人:(遮るように)考えなかった?

一年もの間、一回もこういうことされたらどうしようとか考えずに俺の横で寝てたわけ?

 

 

柚月:そ、そんなの…

 

 

柚月M:ない、といえば、嘘になると思った。

ただ、いつも寄り添ってくれるあたたかさに、私は甘えすぎていたんだ。

いい大人のくせに、そんな都合のいい話なんてはじめからあるわけがなかった。

 

 

裕人:…そんなの、都合良すぎるだろ。…柚月。

 

 

柚月:…っ。…ごめん、なさい、本当に…(遮るようにキスをされる)

 

 

裕人:……ごめん。

 

 

柚月:…裕人、どうして、震えてるの。

 

 

裕人M:もうとっくに、手遅れだった。

目の前の一人を愛するには、時間も心も、あまりに深くなりすぎていたんだと、俺はようやく思いしらされた。

 

 

柚月M:小さく『ごめん』と繰り返す彼は、私自身よりももっと大きな、抱えきれなくなった何かに謝っているようだった。

歪む顔を見上げながら、私は自分のしてきたことの残酷さにこのとき初めて気がついた。

 

 

裕人:俺は…柚月を、傷つけたくない。

 

 

柚月:裕人は私を傷つけてなんかない。何度も何度も、傷つけたのは私の方でしょう。

 

 

裕人M:高校の時から、気づけば柚月は隣にいた。

でも、お互いに恋愛感情を抱く距離すらも通り越して、俺たちは近づきすぎたんだと思う。

そんな無意識に積み重なったエゴをぶつけている自分に、たまらなく腹が立った。

 

 

柚月:こんな苦しい思いさせて、気づけなくて、ごめんね。

 

 

柚月M:腕を伸ばして抱きしめると、だんだん彼の震えが収まっていくのがわかった。

 

 

柚月:…ねぇ、裕人。今日は、裕人の好きにしていい。思うままに、何したっていいよ。

 

 

裕人:(柚月から体を離し、驚いた顔で見つめながら)…違う、そうじゃない。俺は…っ

 

 

裕人M:『そういうことがしたいんじゃない』そう継がれるはずだった言葉は、彼女の瞳に遮られてしまった。

なんの曇りも、恐れもなく、無防備に開かれた心に、俺はただ、吸い寄せられた。

 

 

柚月M:それが、私にできる唯一の償いだと思った。

裕人と交わす二度目のキスは、苦しいほどに優しく、私の心を締め付ける。

(モノローグに被せるようにして裕人のリップ音あっても◎)

 

 

裕人M:唇を重ね、柔い肌に触れ、自分の持てる全ての愛を腕の中にある小さな体に散らした。

 

 

柚月M:こんなにも愛に溢れた熱があるなんて、知らなかった。

痛みによって罰せられるはずだった私を、彼の瞳が、指が、心が、そっと包んで、癒していく。

 

 

裕人:柚月…っ

 

 

柚月:裕人、どうして…こんな、優しくするの…

 

 

裕人:…言っただろ。俺は、お前を傷つけたくない。ちゃんと…愛したい。

 

 

柚月M:『愛したい。』

恋による虚しさしか経てきたことがなかった私にとって、

その言葉は、これまで埋まることのなかった心の穴をゆっくりと満たした。

 

 

裕人M:ぽろぽろと涙をこぼす彼女の頰を、俺はそっと撫でる。

求めたい。求めてほしい。

溶け合う体温が上がるほどに、思考の輪郭がぼやけていく。

歪んでいると蓋をし続けてきた愛を、必死に受け止めようとする彼女が、どこまでも愛おしかった。

 

 

柚月M:鈍い痛みも、すぐに甘やかな熱に姿を変える。

こんなふうに想われたなら、また、想うことができたなら、どんなに幸せだろうか。

夢を泳ぐような心地の中、私は彼の言葉をなぞるようにして声に出してみる。

 

 

柚月:あ…い、して、る…

 

 

裕人:…っ!

 

 

裕人M:その意味を探るように、夜雨に隠れた月を探すように紡がれた声をすくいとって、俺はそっとキスをする。

 

 

柚月M:背中に回されたたくましい腕、汗ばんだ肌から伝わる体温。

心から誰かを想い、想われるということは、決して力任せでも、無理矢理でもない、

静かで力強く、どこまでもあたたかいものだった。

 

 

裕人:…愛してる。

 

 

柚月M:少し掠れて潤んだ声に身を委ね、私の意識はそっと夜闇(やあん)にとけた。

 

 

 

【パラパラと降る雨の音・ぼんやりと窓の外を眺める裕人と目を覚ます柚月】

 

 

柚月:……ひろ、と…?

 

 

裕人:…っ、柚月、体、大丈夫か?

 

 

柚月:私は大丈夫。今、何時?

 

 

裕人:まだ3時。…本当にごめんな、俺、こんなつもりじゃ…

 

 

柚月:謝らないで。裕人、私何も怒ってないよ。傷つけられてもないよ。

むしろ…感謝、してるの。

 

 

裕人:え…?

 

 

柚月:多分私は、本当の意味で誰かに想われるとか、愛してるが故に求められるってどういうことなのか、

ずっとわからなかったんだと思う。

でも、裕人に教えてもらえた気がしたよ。

 

 

裕人:…本当は、ただ、気持ちを伝えようって考えてたんだ。

でも、どうしていいかわからなくて、結局、いつもよりちょっといいホテルにするとか、

そんなありきたりな方法しか思いつかなかった。

今まで通りの仲でいられないどころか、もう支えることすらできないくらいに関係が崩れたらどうしようって、ずっと怖かった。

 

 

柚月M:ポロポロとこぼれる本音を受け止めるように、私はそっと手を重ねる。

ただひたすら不器用なその優しさに、これまで感じたことのない気持ちが湧き上がってくる。

 

 

裕人:…でも、叶うなら、これからもずっと柚月を大切にさせてほしい。

 

 

柚月M:言葉もなく、触れるだけのキスをする。これだけ悩み抜いた末の繊細な答えを、ただただ抱きしめたかった。

 

 

裕人M:雨音だけが響く部屋。

さっきまで暗い雲に隠れていた月は、穏やかな光を放っていた。

この誓いは、この夜はきっと、永遠(とわ)の記憶になって心を照らす特別になる。

 

柚月:愛してるよ、裕人。

 

 

 

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